大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大洲簡易裁判所 昭和31年(ハ)32号 判決

原告

久保実

被告

増岡繁明

主文

被告は、原告に対し金五九、一四一円、及びこれに対する昭和三一年三月二九日からその支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は、被告の負担とする。

原告は、金六、〇〇〇円の担保を供した上、第一項についてこれを仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

(一)  争の基礎たる事実

原告が愛媛県喜多郡内子町袋口字キキヨウノハナ乙一、五〇一番地山林七畝四歩及び同所乙一、五二二番地山林二畝二二歩を、被告が同所乙一、五二三番地山林二畝二四歩及び同所乙一、五一九番地の山林をそれぞれ所有していること・被告が、昭和三一年一月中に、原告においてその所有地内と称する別紙(省略)図面の係争地内の立木を訴外成岡久義に売渡し、同人がこれを伐採の上搬出して処分したことは、当事者間に争なく、第一回検証の結果によると、別紙図面の×点附近に、係争地内の立木の伐根と同時頃に、伐採せられたと推測されるところのすぎの伐根が一株存在していることを認めることができる。

(二)  本論

(1)  係争地の帰属について

一、第一、三回検証の結果により、別紙図面(ホ)(ト)=(ヘ)(チ)(ヌ)(ル)=(る)及び(を)各点にはそれぞれ境界石が存在していることを認めることができ、これら境界石の持つ関聯性ないし意味は、おゝよそ次のように考えることができる。

(1) (ホ)点の境界石は、(ヘ)ないし(ト)点と関連があつて、これら各点を結ぶ線が一つの境界をなしているものと解することができる。

(2)  (ト)―(ヘ)(チ)(ヌ)(ル)―(る)各点の境界石は、その位置及び方向―(ト)=(ヘ)は方位角約一五〇度・(チ)は同約一五〇度・(ヌ)は同約一六〇度―から考えて一つの線をなしているものと解することができる。

(3)  (を)点の境界石は、一般的に考えても類例のまれなものであつて、そのうち小の石はいわゆる添石と言うべきものであるが、大、中の石は、それぞれが独立した意味をもつたもので、この点から、方向を異にする二箇の境界線が発していることを示す意味のものと解するを相当とする。

(4)  別紙図面(ル)=(る)(を)(わ)各点を順次結んだ線及び(ト)=(ヘ)(と)(ち)各点を順次結んだ線がそれぞれ境界線であること―それが境界するところの土地の地番は別として―は当事者間に争ないから、右(を)点の大石は(ル)=(る)点と、中石は(ち)点とそれぞれ関聯しているものと推測することができる。

二、一、の認定事実及び解釈ないし推測事項に、成立について争ない甲第一号証を総合して考え合すと、おゝよそ次の事実を推測することができる。

(1) (を)点は、鋭角をなしているところの乙一、五一九番地の頂点である。

(2) (ち)点と(と)点とを結んだ線の東側は、原告所有の同所乙一、五二四番地である。

(3) (イ)(ル)=(る)(わ)各点を順次結んだ線の南側は、原告所有の同所乙一、五一七番地である。

(4) (ト)=(ヘ)点と(と)点とを結んだ線の西側は訴外本谷敬次郎所有の同所乙一、五二六番地、あるいは同所乙一、五二七番地である。

(5)  このようにして(ト)―(ヘ)(と)(ち)(を)(ル)=(る)(ヌ)(リ)―(ソ)(チ)各点を順次結んで(ト)=(ヘ)点に回帰する線をもつて囲まれる範囲の土地は、乙一、五二三番地である。

(6)  したがつて係争地(の大部分)は、乙一、五二二番地である。

三、二、の推測事実、証人久保林右衛門及び同久保ヒデの各証言、原告本人の供述並びに、被告において別紙図面(チ)点及び(ヌ)点の境界石を合理的に説示できないこと、及び乙一、五二二番地の所在箇所を明示できないことの弁論の全趣旨を総合して、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)=(い)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)=(ヘ)(チ)(リ)=(リ)(ヌ)(ル)=(る)各点を順次結んで(イ)点に回帰する線をもつて囲まれた範囲は乙一、五二二番地、この(イ)ないし(ト)点を順次結んだ線の外側は乙一、五〇二番地であることを認めることができ、したがつて、(ト)=(ヘ)(と)(ち)(を)(ル)=(る)(ヌ)(り)=(リ)(チ)各点を順次結んで(ト)=(ヘ)点に回帰する線をもつて囲まれた範囲は乙一、五二三番地と認めるを相当とする。

四、たゞ、証人大野音松の証言(第一、二回)によると、同人が約四〇年前に、係争地のすぎ立木を乙一、五二三番地と認むべき部分のものと同時に伐採したことがあるものゝごとくであり、又第三回検証の結果によると、(ト)=(ヘ)(チ)(リ)―(り)各点附近の立木は、その伐根の年輪が、ほゞ同一で、三五年ないし四〇年くらいまでのものが、これら各点の周囲にわたり混然として植栽せられたものと認められるから、あるいは、係争地は、被告の家で管理した事実があるかも知れないが、管理権と所有権とは必ずしも一体で存在すると限らない―例えば伐採跡を焼畑として借受け使用の上数年後苗木を植えて返還する例は、古来この地方においてしばしば行われている―から、その事実があるとしても、右三、の認定事実の反証とはし難い。

(2) 損害額について

一、前記(一)のとおり、被告が昭和三一年一月中に係争地内の立木を訴外成岡久義に売渡し、同人がこれを伐採の上搬出して処分したことは当事者間に争なく、別紙図面×点附近に存在したところのすぎは、それが係争地に近接していること、係争地内の立木と同時頃に伐採されたものであること及び被告において積極的にそれを売渡していないことを主張しないこと等を総合して、被告がそれおも成岡に売渡し、同人が伐採の上搬出して処分したものと認めるを相当とする。

二、そうして、鑑定人石本政行の鑑定の結果によると、これら立木は、すぎ一三四本、三、六四六才九合、まつ六本、三五九才七合であつて、これが当時の価格は、前者が金五五、七九六円、後者が金三、三四五円、その合計が金五九、一四一円であることが明らかであるから、被告は、原告に対し、当時から―少くとも昭和三一年三月二九日から―の民事法定利率による遅延損害金を附加して同金員を支払う義務を負うものと言うべきである。

(三)  結語

すなわち、原告の主張は理由がおるから、本訴請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一、三項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 水地巌)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例